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北欧は何故『幸福』『働きやすい』と言われるのか?

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岡崎竜也

デンマークの働き方から見る、北欧の実情

北欧は「幸福」「働きやすい」という声をよく耳にする。果たしてその情報は本当なのだろうか? 2022年度幸福度ランキング2位に選ばれた、デンマークの働き方からその実情を探る。2022:7:6_Denmark

北欧が働きやすいと言われる理由は「時間の過ごし方」にあり?

デンマークの労働環境の特徴として、「労働時間が短いこと」が挙げられる。
2022年度のOECDの調査(*1)によるとデンマークの平均年間労働時間は1363時間であり、これはOECDの中でドイツに次ぎ、二番目に短い労働時間である。日本の平均年間労働時間は1607時間であり、日本と比較して年間、244時間も労働時間が短いことが分かる。
デンマークには、残業はほとんど存在せず、仕事に対する評価は労働時間ではなく、成果が重要視される。そのため、個々人が限られた時間を有効活用することを考えているのだ。

北欧にある「働きやすさを司る制度」は「柔軟性」に支えられている

デンマークは、「フレキシキュリティ(flexicurity、福祉国家における積極的労働市場政策モデル)」という、解雇規制の緩和による柔軟な労働市場の実現と同時に、手厚い失業手当によって労働者の生活の安定を図る政策に取り組んでいる。
デンマークのフレキシキュリティ制度は「ゴールデントライアングル」と呼ばれており、

 - 解雇しやすいフレキシブルな労働市場
 - 手厚い失業手当
 - 再就職を支える充実した職業訓練

の3つを軸としている。
失業手当が充実しているため、安心してプライベートも両立しながら、次の職場を探すことができるのだ。こうした制度の背景があるため、人材の流動性が高く、転職は一般的となっている。

デンマークの労働環境は完璧なの?

デンマークでは、ジョブ型採用が当たり前で、職務内容に必要なスキル・知識・経験を持っている人を採用する。日本でも近年、ジョブ型採用が増加してきたが、まだまだメンバーシップ型の採用方式が主流だ。
どちらの採用方式にもメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いとは言えない。例えば、日本と比較した際のデンマークの雇用の問題点として、若者の失業率が高いことが挙げられる。2022年度のOECDの年齢層別の失業率の調査(*2)によると、2022年5月時点の日本の25歳未満の若年失業率は3.8%であるのに対し、デンマークの25歳未満の若年失業率は8.8%となっている。

とはいえ、デンマークの失業率もOECD全体で見れば、決して高い方ではないのが事実だ。
また、ジョブ型採用が主流の国では、新卒研修やOJT制度がほぼ存在しないため、若手が育ちにくく、スキルがない若年層は就職難になりやすいという背景もある。

日本と比較して、デンマークって本当に「働きやすい」の?

結論として、「デンマークには、日本と比較して働きやすい環境が整っている」と考えられる。デンマークの働き方は、ワークライフバランスが素晴らしく、個々のライフキャリアが尊重されている。長時間労働は存在せず、プライベートを大切にする文化が根付いているのだ。
また、企業が従業員の解雇をしやすい制度のため、人材の流動性が高く転職は一般的であるが、手厚い失業手当により、金銭的な心配をすることなく、腰を据えて次の職業を探すことができる。
働き方改革により一昔前よりは改善された日本の労働環境だが、まだまだ課題は枚挙にいとまがない。デンマークの労働環境には、日本が参考にできる点が数多くあるのではないだろうか。

参考文献

*1「OECD (2022), Hours worked (indicator). doi: 10.1787/47be1c78-en (Accessed on 06 July 2022)」https://data.oecd.org/emp/hours-worked.htm

*2「OECD (2022), Unemployment rate by age group (indicator). doi: 10.1787/997c8750-en (Accessed on 06 July 2022)」https://data.oecd.org/unemp/unemployment-rate-by-age-group.htm

「デンマークのフレキシキュリティと我が国の雇用保護緩和の議論」独立行政法人労働政策研究・研修機構 https://www.jil.go.jp/column/bn/colum072.html

「フレキシキュリティとは?意味や効果、デンマークやオランダの事例を詳しく解説」Schoo for Business https://schoo.jp/biz/column/1015