世界中の企業が取り組むビジネスデザイン
前回の「なぜ、デザイン思考がビジネスの場に必要なのか?」の記事では、ビジネスデザインを実現するための思考法であるデザイン思考について、必要とされるようになった背景や、思考プロセスを解説しました。
いまやAppleやGoogle、任天堂やYahoo! JAPANなどの大企業だけではなく、世界中の多くの企業がこの思考法をビジネスの場に取り入れようとしています。その中には、成功している企業もあれば、道半ばの企業も多くあるでしょう。
では、成功している企業は、具体的にどのようにデザイン思考を用いて、ビジネスデザインに取り組んでいるのでしょうか?
今回は、ユーザーの視点に立ち、仮説を立て、その仮説の中で新しいビジネスモデルを構築し、トライアルを重ねながら軌道修正するデザイン思考を用いた実際の事例をもとに、企業がビジネスデザインにどのように取り組み、事業として成功したかについて紹介します。
Apple、任天堂の開発事例
2014年に須藤順氏(執筆当時、高知大学地域協働学部講師)がWebメディア(*1)に寄稿した記事「デザイン思考の活用事例」には、デザイン思考を用いた成功例として、Apple、任天堂、Yahoo! JAPAN、サムスン電子、LINEの事例が取り上げられています。
今回は須藤氏の記事内容を引用(斜線部)しながら、そこにデザイン思考の5つのプロセスを当てはめ、代表的な開発事例として取り上げられることの多いAppleのiPodと、任天堂のWiiの開発事例を紹介します。
ここでは、前回の記事でも解説した「デザイン思考の5つのプロセス」である、
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・Step1 共感(Empathize)
・Step2 問題定義(Define)
・Step3 創造(Ideate)
・Step4 プロトタイプ(Prototype)
・Step5 テスト(Test)
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に当てはめて、iPodの開発ステップを見ていきます。
1. Apple「iPod」の開発
iPodの開発体制は、「社内の開発者に加え、社外のデザイン専門家や心理学者、人間工学の専門家など35名が参画したもので、わずか11カ月足らずの短期間で開発が行われた」と言われています。
ここでも、上記の5つのステップに沿って、iPodの開発ステップを見ていきます。
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彼らが最初に着手したのは、「Step1 共感」の部分で、「競合他社の製品分析」と「ユーザーがどのように音楽を聴いているのか」を徹底的に観察することでした。
その結果、「CDからPCへ音楽を保存しそれをプレーヤーに移すことを、ユーザーの多くが手間に感じている」ことを発見し、「どこでもその場で選んだ音楽を聴きたい」というユーザーの潜在的ニーズが導き出されました(「Step2 問題定義」)。
ここから、「音楽の聴き方に革命を起こす」「すべての曲をポケットに入れて持ち運ぶ」といったコンセプトが生まれ、スクロールホイールや、iPodとPCを自動同期させるAuto-syncといった斬新なアイデアを具現化していきました(「Step3 創造」)。
試作と評価・フィードバックは何度も繰り返され、約2カ月で100以上のプロトタイプが制作されたそうです(「Step4 プロトタイプ」「Step5 テスト(Test)」)。
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そうして、Appleは2001年10月、「自分の音楽コレクションを全部ポケットに入れて持ち運び、どこでも聴くことができる新しいデジタルミュージックプレーヤー」を発表。市場に投入されると同時に、世界中で爆発的ヒットとなりました。
初代iPodの発売後もユーザーの行動分析は続けられ、Appleの製品は今も進化を続けています。
2. 任天堂「Wii」の開発
国内の開発事例では、任天堂のゲーム機 Wiiが挙げられます。ここにも、上記の5ステップを当てはめることができます。
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Wiiの開発ステップは、まずは社員の家庭の観察を実施。その結果、「ゲーム機があることで子どもと親の関係が悪化している」「ゲーム機があるとリビングでの子どもの滞在時間が短い」といった状況が確認され、また鍋を囲んでいる家庭は親密度が高いことなども、明らかになりました(「Step1 共感」)。
ここから「家族が楽しめる」「家族の関係を良くするようなゲーム機」というコンセプトを創出(「Step2 問題定義」)。それを実現するためのアイデア創出が繰り返されました(「Step3 創造」)。
その結果、家族がみんなで使えるリモコンのようなコントローラーや低消費電力CPU、リビングにおいても邪魔にならないコンパクトな本体を具現化(「Step4 プロトタイプ」)。コントローラーは、1000回以上のプロトタイピングが実施されたそうです。
そうしてWiiは発売から6週目で累計販売台数100万台を突破し、ご存知の通り、世界的な大ヒット商品となりました。
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詳しい内容や、他社の事例についても知りたいという方は、須藤氏の記事内容とともに、記事末尾に「参考文献」として取り上げられている書籍(*2)を読んでみることをおすすめします。
ビジネスデザインに必要な複数の視点
上記で紹介した事例では、社外から各フィールドの専門家が参画しています。
社内で何らかの課題を認識した後、「ユーザーの視点に立ち、仮説を立て、その仮説の中で新しいビジネスモデルを構築し、トライアルを重ねながら軌道修正する」作業には、様々な視点が必要とされるからでしょう。
次回は、ビジネスデザインを業務として受託し、顧客企業の強みを活かしたアウトプットでビジネスへの貢献を行っているコンサルティング企業の事例を取り上げ、顧客と共にどのようにゴールを達成しようとしているかを紹介します。
*1 須藤順「デザイン思考の活用事例」Build Inside 2014/8/1 https://www.buildinsider.net/enterprise/designthinking/03
*2
・Brown,Tim “Design Thinking,” Harvard Business Review,86(6), pp.84-92、2008年(「人間中心のイノベーションへ:IDEOデザイン・シンキング」『Diamond Harvard Business Review』pp.56-68, 2008年)
・奥出直人『デザイン思考の道具箱:イノベーションを生む会社のつくり方』早川書房、2013年
・上野哲史「デザイン型人材の役割と実践:”デザイン思考”によるイノベーションの場の創造」『ITソリューションフロンティア』2012年5月号, pp.10-15、2012年
・ITと新社会デザインフォーラム『ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ:社会価値を創造する“デザイン型人材"の時代へ』日経BP社、2013年
・野村総合研究所『国際競争力強化のためのデザイン思考を活用した経営実態調査報告書』2014年 など