日本のみなさんこんにちは。クリスターです。
今回は、変化を続けるビジネス市場において、企業が生き延びていく術をご紹介します。
創造的破壊を生き抜くには
シンガー・ソングライターのウォーレン・ジヴォンは、60年代に共産主義者によって乗っ取られたキューバを題材に、自分が空想上の登場人物として牢獄に入れられた時の曲を描きました。ジヴォンは、なんとか置かれている状況を打開しようと父親にこう手紙を書きます。
「弁護士と銃と金を送ってくれ!父さん!ここから出して!」
この言葉は現代の経営者や取締役が自分の業界に創造的破壊が生まれる時の最初のリアクションを表しています。
(※創造的破壊 - 20世紀の有名な経済学者ヨーセフ・シュンペーターが作った言葉。イノベーションが、既存の技術や知識、会社などを駆逐してしまうほどの影響を及ぼすこと。)
1990年代のイノベーションマネジメントの研究を見ると考えられないことかもしれませんが、現在、さまざまな業界で創造的破壊が巻き起こっており、一般市民はもちろん、各国の政治家もマネジメント研究に大きな注目を置いています。私の母国であるデンマークでは、国内における創造的破壊について専門的な知識を得るため、政府が諮問機関を設けました。興味深いことに、この諮問機関には、古くから国の強みである業界の企業経営者やNGOの責任者、芸人をはじめとする文化的なエリートなどが参加していますが、創造的破壊に専門知識を持った研究者はいないのです!
それでは、創造的破壊の始まりと実態を深堀りしてみたいと思います。
創造的破壊の始まり
創造的破壊の起源を辿る上で、大きな反響を呼んだ自著「イノベーションのジレンマ」で「破壊的技術」の概念を提唱したクレイトン・M・クリステンセンは無視できません。「破壊的」という、現在の市場で権力を握る企業にとって好ましい「持続的」とは対義的な言葉が、クリステンや彼の研究室に思いつきを与えたそうです。
しかし、マネジメントや、マネジメント層の業務内容について、大きな技術的革新の必要性に気づいていたのはクリステンセンだけではありません。例えば、経営学者のリチャード・ベティスとマイケル・ヒットは、1995年に共同で出した論文で「20世紀後半にかけて、技術の発展がこれまでのビジネスの概念を急速に変化させている」と述べており、学術雑誌「Strategic Management Journal」でも、丸一冊かけて技術発展がビジネスや経営戦略のあり方を激変させる可能性について述べています。彼らは、この状況を「The new competitive landscape (新たな競争環境)」と称しました。
さらに、ラリー・ダウンズとチュンカ・ムイもクリステンセンと同時期に技術発展の可能性について言及した研究者の一員です。彼らは共同研究の中で、技術発展がなぜ市場競争や経営戦略にそれほど大きな影響を与えるのかを証明しました。彼らによれば、その理由は私たち人間や組織、そして社会が対応可能な速度以上で技術革新が起こることが、根本的な原因なのだと言います。
「破壊的変化」の定義の変遷
研究が始まった当初から「破壊的変化」の概念は変化しつつあります。「破壊的変化」とは、もともと技術革新がなぜ市場を革新したり、はたまた既得権益を持つ企業に更なる力を与えるのかを説明する新たな概念でした。「技術革新」という概念が生まれると同時に、経営学者たちは、「破壊的変化」に伴って今後の市場での競争や最適な経営戦略が大きく変わると気づきました。言うまでもなく、学者や経営者、起業家たちは時代の流れに遅れまいと破壊的変化に注意を払うようになりました。ですが、一般人や彼らの代表として国を動かす国会議員には、あまり興味のないことでした。
しかし、最近の破壊的変化は、民間人や国会議員にとっても無視できないものになっています。2020年から21年にかけたコロナ禍による状況の変化は、マネジメントやビジネスの概念を変えるだけのものではありません。コロナは、パンデミックを生き延びるために社会や家族、社会構造の定義を変えなければならない破壊的変化なのです。
社会を激変させた2021年の「破壊的変化」- COVID-19
個人的には、破壊的変化の概念が時を経て変化してきていると考える方が、もう一つの可能性を信じるよりもずっと魅力的です。もう一つの可能性とは、政治家が私たち経営学者の過去20年の研究に目を向けていなかったり、学者側の政治家に向けた「破壊的変化」の危険性の忠告がうまくいかなかったというものです。そんなはずありません。
考えてください。あなたの国のリーダーは、コロナ禍において適切なリスク管理を行いましたか?はたまた、ジヴォンが牢獄から「弁護士と銃と金を送ってくれ!」と頼んだように、必死になって状況を打開しようとしましたか?
今回は、市場で巻き起こる破壊的変化にいかに対応するかを対応しました。
次回は、私の研究パートナーであるオルボー大学Anders Drejer教授について紹介します。
Thank you.
Christer