これまでビジネスデザインに関する記事の中で、ビジネスデザインがなぜ必要とされるのかや、ビジネスデザインによってどのような成功事例が生み出されてきたかについて、紹介してきました。
今回はシリーズ最終回。ここまでご紹介してきた「ビジネスデザイン」のスキルをどのように身につけていけばよいか?というテーマについてお話ししていきます。
ビジネスデザインに必要なスキルとは何か
そもそも、ビジネスデザインに必要なスキルとは、どのようなものでしょうか?
これまでの記事の中で、ビジネスデザインを実現するためには「デザイン思考(Design Thinking)」のスキルが必要だと説いてきました。デザイン思考とは、ビジネスデザインを実現するための思考法で、デザイナーが思考するプロセスをビジネスに当てはめたものです。
単なる意匠的な観点だけではなく、より根本の「設計」の段階から事業全体をデザインしていくための「戦略的な考え方」を指し、その思考には以下の5つのプロセスを必要とします。
- Step1 共感(Empathize)
- Step2 問題定義(Define)
- Step3 創造(Ideate)
- Step4 プロトタイプ(Prototype)
- Step5 テスト(Test)
つまり、ビジネスデザインを実現するためには、「共感できる力」、「問題を発見する力」などが必要であるということです。
これらの能力を誰もが最初から持っているのであれば、世界中にApple製品や任天堂のWiiのような革新的な製品が溢れていることでしょうが、実際にはそうではありません。
では、それらのスキルはどのように身につけることができるのでしょうか?
日常の中でビジネスデザイン的な観点を身につける
1.うまくいっているビジネス・サービスを「デコンストラクション(deconstruction)」する
方法はさまざまですが、一つには、「日常生活の中での思考のトレーニング」が挙げられます。
ビジネスデザイナーでもある弊社の渡辺社長は、そのトレーニングの例として、「うまくいっているビジネス・サービスを、頭のなかで分解し、キーとなる要素を見つけること」だと説いています(*1)。
渡辺社長はインタビューの中で、「かつて人から聞いて、目から鱗だった話」として、その内容を以下のように説明しています。
-------------
「うまくいっているビジネス・サービス」は、たくさんありますよね。その方は「デコントラクション(deconstruction)」という言葉を使っていましたが、そのうまくいっているビジネス・サービスを頭のなかで分解してみると、やはりキーとなる要素が出てくるんです。
そして「これだ!」という要素を、自分の引き出しに入れていく。その引き出しが揃ってくると、自分が課題に直面した時に、組み合わせることができる。その積み重ねが、結構大きい気がしますね。
—-------------
「デコンストラクション(deconstruction)」は、破壊を意味する「destruction」と、構築を意味する「construction」を合わせた造語。日本語では「脱構築」と訳され、既存の枠組みや背景を破壊し、新たに構築し直すことを指しています。
自分の身の回りにある出来事で、デコントラクションを行い、自分の引き出しの中に入れていく。そうすることで、思考のトレーニングを日常的に行うことができるようになり、いつか課題に直面した時に、引き出しの中の知見を組み合わせることができるということです。
2.人間に興味を持ち、よく観察する
単純な話ですが、開発した製品やサービスの先にそれを利用する人間がいる以上、「人間の思考や行動」に対する興味や関心を持つことは必須です。
例えば、デザイン思考の成功例をいくつも生み出しているAppleの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏について、彼と「Apple II」の開発にあたったマーケティング専門家のレジス・マッケンナ氏は、NHKのインタビュー(*2)で以下のように述べています。
—-------------
「スティーブは、いろんな店に行って買い物客をよく観察していました。人々がどういうものを欲しがっているのか、実際に人に会ってたくさん質問して、“市場と対話”していたんです。“こうだったら良いのにな”という物事の先を見る目はピカイチだったと思います」
—-------------
ジョブズ氏は、人間をよく観察して何度も質問し、彼らが何を考えているのか・何に興味があるのかを捉え、仮説と検証を繰り返しながら、世界的に爆発的ヒットとなったApple製品の開発にこぎつけたのでしょう。
よく観察し、市場と対話する姿勢を持つよう心がけることは、今日から誰でも実践できますね。
学校やビジネススクールで学ぶ
ビジネスデザインについて体系的に学ぶには、書籍から学ぶ以外に、スクールに通うことも一つの選択肢です。世界中の大学や大学院の中で、ビジネスデザインに関する講座が開講されています。
日本でも、筑波学院大学・昭和女子大学・専修大学・桃山学院大学などにビジネスデザイン学部、立教大学大学院・城西国際大学大学院などにビジネスデザイン研究科が設置されています。
例えば立教大学大学院ビジネスデザイン研究科は、同研究科の設立の目的として、「真のゼネラリストとなるゼネラリストのスペシャリストを養成する」ことを挙げています(*3)。ここでのゼネラリストとは、専門化した各職能を結合し、創造的な意思決定を行う人材、組織を進むべき方向に導く人材のことを指します。
ビジネスデザインには多角的な視点が重要ですが、同時にそれらを結合し、迅速に組織の中で意思決定を重ねていく力も必要です。
各大学や大学院では、マネジメントや経営論を学ぶ座学やゼミのほかにも、ゲストスピーカーを招いてのディスカッション、企業へヒアリング、インターンシップの実施など、横断的な学びができるよう構成されています。
大学院には、社会人向けの講座も多く設置されています。知識を習得するとともに、同じ志を持つ仲間にも出会えるはずです。
*1 「ビジネスデザイン」とは何か?【後編】
https://www.innovator.jp.net/blog/articles/what_is_business_design_02
*2: NHK News WEB『デザインは、見た目じゃない』(2021年10月11日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211011/amp/k10013301671000.html
*3 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科