HOME Corporate 「社会保険の適用拡大を3年前倒しで導入」〜その理由とメリットを実務担当者が語ります〜

「社会保険の適用拡大を3年前倒しで導入」〜その理由とメリットを実務担当者が語ります〜

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ナナチャンヌ

こんにちは。株式会社イノベーター・ジャパンの職住近接プロジェクト「&donuts」の労務担当nanaです。

2022年10月から短時間労働者の社会保険の適用拡大が始まりますね。
該当する会社の労務担当の皆さんは改正に向け準備をしているのではないでしょうか。
株式会社イノベーター・ジャパン、および私たち&donutsは、2024年10月からの改正に該当する予定ですが、2021年10月に労使合意による適用拡大の制度を使って前倒しで導入しました。
今回は導入の経緯や苦労した話なども含めて労務担当の目線からお届けします。

なぜ改正より早く導入したのか?

職住近接プロジェクト&donutsでは、働く時間をメンバー自身で、ある程度自由に決めることができます
現状では、フルタイムのメンバーより週20〜30時間程度で働くメンバーの方が多く、働く時間が人によって違うことが&donutsの特徴です。

さらに、毎月契約時間の変更をすることができ、シフト変更や中抜け、在宅勤務など、柔軟な働き方に関してはどんな会社にも負けないと自負しています。

ここまで働きやすい環境を整備する理由は、&donuts自体が、さまざまな理由から働く時間や環境に制限があるメンバーでも、そのポテンシャルを引き出し、成長していけるプラットフォームを目指しているからです。

その結果、「スキルは高いのに一般的な会社では働きにくい人」でも一緒に働くことができるのが、当社の魅力の一つだと思っています。
ただ、いくら社内の制度を充実させても、国の社会保険加入の条件を&donutsに当てはめると週30時間以上働く必要があり、この条件はメンバーが働き方を考えるにあたって大きな壁となっていました。

例えば、&donutsでは半期ごとに時給の改定が行われますが、スキルが上がり、時給が上がったとしても、配偶者の扶養内勤務をしている人にとっては今後の働き方に迷う場合がありました。
就業時間数を減らし年収を130万円未満に抑えるか、少し無理をして週30時間以上働くかの選択が必要になったり、反対に社会保険に加入するために30時間以上働くメンバーは時間を減らす選択が難しい…ということもありました。

そういうものだ、と思ってしまえばそれまでなのですが、労務担当としては「労使合意の適用拡大の制度があるのであれば、そこのジレンマを解消したい」という思いが強くありました。
今後、国の流れとして「社会保険の加入者の増加」を見込んでいるはずなので、短時間労働者の加入が当たり前になる前に導入するのも、会社としての意義があるのではないかと考えました。

そもそも2022年10月からの社会保険の適用拡大の内容は?

そもそも、社会保険の適用拡大は、会社の規模によって2016年からすでに始まっています。現在は501人以上の企業で下記4つの要件に全て当てはまる従業員は、社会保険への加入が必須となっています。

1.週の所定労働時間が20時間以上
2.雇用期間が1年以上見込まれる
3.賃金日額が8.8万円以上
4.学生でないこと

そして2022年10月より101人以上の企業、2024年10月より51人以上の企業と段階的に拡大し、さらに2022年10月からは上記の2.の要件である雇用期間が「1年以上」から「2ヶ月超」となり、会社規模だけでなく対象従業員の条件も緩和されます。

以上は会社の義務の内容でしたが、これとは別に2017年4月から500人以下の会社について、労使合意があれば任意に上記1〜4に当てはまる従業員に適用拡大が可能になりました。昨年&donutsで適用拡大を導入したのは、こちらの労使合意によるものです。

導入する前にどんなことを準備した?

導入前には、主に以下の4つを行いました。

①労使合意の社会保険の適用拡大の概要を調べる
まずは、実際に労使合意することで、何が適用できるのか?の事実関係を調べました。

②従業員へのアンケート
&donutsメンバーに、導入の賛否や仮に導入したら働く時間を変更するかどうかのアンケートを複数回実施し、ニーズがどの程度あるかを調べました。

③会社負担の保険料の概算の算出
会社側との交渉材料として、アンケート結果から導入後の一人ひとりの働く時間を予想して月収を割り出し、おおよそですが会社負担の保険料を計算しました。

④助成金の有無
導入することで申請できる、国の助成金などがあるかも併せて調べました。

会社の費用負担が増えるので交渉には時間がかかる

最初は、やはり保険料の負担増となるため何度か見送りになりました。2024年10月の改正を待たず、3年前倒しで導入する意味があるのか?と会社からは問われました。

もちろん、単純な会社の費用負担の観点で言うとデメリットにも見えますが、例えば、社会保険加入のために週30時間働く人が、同じ仕事量を週26時間でこなせると4時間分の生産性が上がりますし、スキルがあっても扶養内勤務で時間の制限がある人が、週5時間多く働くことができれば、会社の利益にもつながります。

このように会社にとってどのようなメリットがあるのかについても、具体的に協議しました。もちろん、デメリットに対して、メリットがすぐに結果として出てこないことなので、検討する難しさはありましたが、上記の準備などを経て、導入に至りました。

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バックオフィスチームのミーティングの様子

社会保険適用は従業員にとってメリットの方が大きい

さて、ここまで社会保険適用の話を見てきましたが、実際に社会保険適用による従業員のメリットは、どのようなものなのでしょうか。具体的には、以下のことが挙げられます。

  • 週30時間未満で年収130万円以上のパートタイマーでも社会保険に加入でき、自分で国民年金、国民健康保険に加入しなくてもよい
  • 厚生年金に加入することで将来の年金額が増える、障害厚生年金、遺族厚生年金など、もしもの備えの補強、また、健康保険においては傷病手当金や出産手当金の受給が可能
  • 保険料は労使折半となるため、それまで自分で国民年金や国民健康保険に加入していた人は報酬額にもよるが、保険料が安くなることがある
  • 今まで社会保険に加入するために週30時間以上働く必要があった人が、週20時間まで減らすなど、より自分に合った働き方が選択できる

例:社会保険加入のため週30時間の勤務が必要だったが、子どものお迎えの時間がギリギリだったAさん。
週4日8時間(週32時間)→   週4日7時間(週28時間)
勤務時間を1時間減らすことでお迎え時間に余裕が持てるようになった。

一方で、デメリットとしては以下のことが挙げられます。

  • 任意特定適用事業所となることで、要件に当てはまる人は全て社会保険に加入しなければいけない

例:週20時間以上働いていて配偶者の扶養内勤務を続けたい人でも、個々に加入しないという選択肢はなく、加入することで保険料の支払いが発生する。

ただ、こちらのデメリットも事前のアンケートや対象メンバーへのヒアリングで、十分理解してもらえたと感じています。

会社側からのメリットは?

では、会社側のメリットはどうでしょうか。もちろん、会社ごとに違ってくると思いますが、&donutsの場合は配偶者の扶養内勤務のため年収130万円以内に収める必要があるメンバーが多くいました。
しかし、その制限がなくなり、働く時間を増やしたり時給が上がっても良くなったことで、よりスキルを身につけようというモチベーションが生まれたことがメリットと言えると思います。

実際に、今回の適用拡大により、理想の週20〜30時間で働くことが可能になったと喜ぶ声が多数ありました。

会社にとってもメンバーが自分らしく働くことで、パフォーマンスを向上させたり、サステナブルに働ける結果となり、労使双方にメリットがあったと実感しています。
もちろん、適用拡大した従業員の保険料の負担が会社にとって最大で唯一のデメリットと言えます。しかし、&donutsではメリットと天秤にかけ、必要投資という観点で労使合意に至ることができました。

制度導入後のメンバーの働き方の変化は?

繰り返しになりますが、制度の導入によって、メンバーの理想の働き方に近づけたと思います。
メンバー全体の働く時間も平均すると週25時間ほどになり、個人ごとの契約時間の差が少なくなったことで、メンバー間の仕事の比重の偏りも減ったように思います。
また、年収や時間を気にすることなく、繁忙期のみフルタイムにするなど、より業務に対応しやすくなったことも良かったと思います。

&donutsの制度に興味を持ってくれた方へ

今、私は労務担当として制度を整えている側ですが、私自身もかつては自分の働き方に悩みがありました。

転勤族のため、どこに行っても仕事ができるように労務の知識をつけたものの、いざ求人を探しても、待遇や仕事内容を優先してフルタイムの仕事か、家庭との両立を優先して短時間の簡単な仕事か、この二択のどちらかでした。
もちろん長時間働けばそれだけ経験値も上がるだろうし、短時間しか働けないのであれば重要な仕事はできない。雇用主側からみれば当然の考えだと思います。

でも、働く側から考えれば、私が今まで培ったスキルを使って仕事をする時間の価値は、働く時間の長さに左右されず同じなのに、と思うこともありました。
今回、社会保険の適用拡大を導入したのも、個人的なそういった考えが根底にあります。完全に従業員側の目線ですね。

労務担当としては雇用する側の目線も必要だと思っていますが、そのバランスをとりつつ、自分たちで組織を整備して作り上げていく意識が、私だけではなく&donutsメンバーにはあると思っています。そして、その想いを会社もきちんと検討して評価してくれる土壌があることがモチベーションにもなっています。

今回の社会保険の適用拡大の導入も、私一人では到底かないませんでしたが、チームメンバーや賛同してくれるメンバーがいたからこそ、労使合意に至ることができました。
これから、もし&donutsに興味を持ってくれる方がいれば、次はあなたの理想の働き方を&donutsで実現していってほしいです。そのために私は労務面からお手伝いしていきますし、業務面からも多くのメンバーがサポートしてくれるはずです。

この記事を読んでくれた方が、少しでも社会保険に関する業務の参考にしていただいたり、また、&donutsで私たちと一緒に理想の働き方を実現したいと感じていただけるとうれしく思います。

引き続き、株式会社イノベーター・ジャパンと&donutsプロジェクトをどうぞよろしくお願いいたします。