■はじめに
今回は、前回の記事「リモートワークの達人の感想」に引き続き、「DX戦略立案書の感想」を書いています。
著者:David L. Rogers (原著), デビッド ロジャース (著), 笠原 英一 (翻訳)
コロンビア大学経営大学院教授のデビッド ロジャースが書いた本。
原著が「The Digital Transformation Playbook: Rethink Your Business for the Digital Age(2016年)」、つまり「デジタルトランスフォーメーションハンドブック:デジタル時代に向けてビジネスを再考する」というタイトルであることが分かります。
著者がDXを進める上での考えるフレームワークを提示しようと書かれている一冊です。
■どんな本か?
本の中で、もう今までの時代(アナログ)とは外部環境がもう変わったんだということが繰り返し解説されています。
特に「変化した環境のなかで、経営者はどのような戦略を取るべきか」という問いに対して、5つの分野(顧客、競争、データ、イノベーション、価値)でそれぞれ1章を割り当てて、解説されています。
特にインターネット誕生前に創業された「大企業向け」に書かれているので、企業担当者やコンサルタントの方にマッチする内容ではないでしょうか。
■3つの見どころポイント
以下、読んでいて面白いと感じたポイントをご紹介します。
1)デジタル時代の「戦略的前提」の汎用性の高さ
お見せできないのが残念ですが、アナログ時代とデジタル時代にかけて「戦略的前提」はどのように変わったか?の図(p.11)は、社内での説明資料として汎用性高く利用できそう。
英語になりますが、以下の記事にて、SHIFTS IN STRATEGIC ASSUMPTIONSでイメージが参照できます。
https://readingraphics.com/book-summary-the-digital-transformation-playbook/
先にも述べた5つの分野(顧客、競争、データ、イノベーション、価値)で、戦略的前提が変わったことを説明しています。
2)紹介事例が面白い
事例は5年前のものなので、事例が若干古いのは否めないのだが、所々「へぇーーー」という事例がいくつかあります。
・Britannica Group
特に、本書冒頭のさわりで紹介されていた「Britannica Group」巻末の参考文献で紹介されていた記事が面白い。
紙の百科事典のデジタルの社長が244年前の商品を廃止した
https://hbr.org/2013/03/encyclopaedia-britannicas-president-on-killing-off-a-244-year-old-product
ハーバード・ビジネス・レビューの記事です。
ウィキペディアの台頭など色々な要因があって、従来の紙製品であった百科事典ではいけないと判断したお話です。
ブリタニカ社の自社ミッションである「専門的事実に基づく知識を社会に提供する」を維持したまま、デジタル時代にどのように対応していったか、こちらのインタビューで詳細に語られています。
昔は紙の百科事典をセールスする拡販部隊を大勢かかえていたが、縮小したり…。
綺麗に語られていますが、過去の強みを捨てるわけですから、波乱万丈なストーリーがあったのではないかと推察します。
トランスフォーメーションは本当に大変。この仕事は楽じゃないなと痛感…
※2013年当時のインタビューなので、現状の売上推移がどうなっているかも知りたいと思ったのだけど、データを調べきれず…
他にも読んでいると多様な事例が掲載されています。
あまり紙面は割かれていないのですが、例えば「19世紀アメリカの鞭メーカーが、自動車が台頭する中でどのように生き残っていったか」など、ちょっと変わった事例も掲載されています。
時代に合わせて、企業がどのように顧客への提供する価値を変えていったか、過去の歴史的な事例も参考になるかもしれません。
今後、そのような事例もみていきたいという良い気づきになりました。
3)「組織にアジリティがあるかどうか」という問い
変革に成功した企業は何がポイントとなったか?
それは「アジリティ」があったかどうかで決まる、と書かれています。
この本に限らず、DX関連のドキュメントを読んでいると、「アジリティ(Agility)」というキーワードがよく見られます。
「どれだけ素早く楽にうごける状態か」を指す言葉で、変革を行う企業に必ずと言っていいほど求められる要素です。
組織的にアジリティを開発するためには、著者によれば、3つの領域に集中する必要があります。
- 資源を配分しているか?
- 測定指標の変更
- インセンティブの提供
普段から変化していくためには「下準備」が必要ということを痛感します。
■さいごに
5つの分野(顧客、競争、データ、イノベーション、価値)の中で、特に第6章の「価値提案を時代に適応させる」を特に面白く読ませてもらいました。
どのような形で、顧客への価値提供を変えていくかは、普遍の課題であり、テーマだと思います。
本としては全体的に堅めの論調で、最後まで読み通すのにかなり時間がかかってしまいましたが、網羅的にDXに関する課題や論点を抑えられています。今後も、辞書的に使って参照していきたい本だと思いました。
■関連リンク
※いくつかの戦略立案ツールがダウンロードできる。個人情報の入力が必要。