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専門分野向け出版社・メディア事業者がビジネスモデルを検討する前に ~広告事業に関する前提~

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ぺろ

メディアコンサルタントのペロです。ペロペロすっぞ!(挨拶)

突然ですが当社には毎週金曜日に「Knowlegde Salad(ナレッジサラダ)」という、知の共有を主目的とした勉強会/発表会のようなイベントがあります。

当社の主たる事業は簡単に言えば「他社のメディア事業をお手伝いすること」なのですが、メディア事業とは言っても幅が広いですし、システム開発だけではなく事業計画の立案からメディア自体の運用支援、成長施策の立案・実施まで代行しています。

イノベーター・ジャパンは単なるウェブ屋/SIerではなく、事業計画の立案から成長施策の実施までお手伝いしています イノベーター・ジャパンは単なるウェブ屋/SIerではなく、事業計画の立案から成長施策の実施までお手伝いしています

このため、社内にはシステムエンジニア(インフラ、バックエンド、フロントエンド)、デザイナーやコーダー、お客様のメディアのお問い合わせ対応を代行するオペレーターなど様々な担当者がおり、全員が「メディアビジネスのプロ」というわけではありません。

とはいえ、全ての役割に「メディアビジネスってどうあるべきなの」という視点は欠かせないため、数年に一度ぐらいは改めてコンサルティング部門が得た知見を共有しています。今回は2023年10月20日(金)の「Knowlegde Salad」で私が解説した、「専門分野向け出版社・メディア事業者がビジネスモデル、事業のあり方などを検討するにあたり、前提となる考え方」、特に広告事業について説明した内容についてご紹介します。

「Knowlegde Salad」における発表自体は5分程度のものであるため、内容は「ほんの触り」である旨ご承知おきください。本記事は5分もあれば読み終わる想定で、以下のような方に役立つかもしれません。

  • 新聞や雑誌などを発行する出版社の方
  • 収益源が主に広告事業であるウェブメディア運営する企業の方
  • メディアビジネスに関心のある方
  • イノベーター・ジャパンの求人に応募しようとしている方

社内発表時はブートキャンプ的なノリで某軍曹にご登壇いただきました社内発表時はブートキャンプ的なノリで某軍曹にご登壇いただきました

なお、この記事の内容は「一定頻度でコンテンツを配信している(新聞や雑誌、フリーペーパーなどの定期刊行物などを発行している)事業」に関する話であり、書籍などの出版がメインである出版社については少し違った考え方が必要であることにご留意ください。

そもそも皆がよく知る「マスメディア」の広告ビジネスに何が起こったか

まず、「メディア」と聞いて皆が思い浮かべる大手マスメディアのビジネスモデルとは、一般的にどのようなものなのでしょうか。販売収益(コンテンツ収益)や不動産収入がある企業も多いはずですが、メディアが持つ広告価値を販売した収益は、どのメディアでも決して少なくはなかったはずです。

それは従来、大まかには以下のようなロジックによって成り立っていました。

「マスメディア」の媒体特性と広告価値には「マス」たる特徴がある「マスメディア」の媒体特性と広告価値には「マス」たる特徴がある

マスをターゲットにしたメディアは、「社会の公器」とも言われるように中立性・公平性が求められ、海外では税金が投入されているケースも多いです。このためマスメディアは視聴者・読者が「コンテンツを得る(購入する、消費する)コスト」が低く、露出量(視聴者数、読者数、imp数)が多くなります。

一方で「中立性・公平性」を維持せねばならず、社会性を維持するため分かりやすさを重視することで「専門性・詳細さ」を確保することが難しく(高コストに)なり、いくら「番組」や「面」や「時間帯」などを組み合わせコンテンツのテーマを特徴づけても、広告を掲載しても本来ターゲットではない視聴者・読者に露出する割合が多くなってしまうことは避けられません。

また、後述する専門分野向けメディアと比較して、「なんとなく」媒体に接する視聴者・読者の割合が高く、情報収集に対するモチベーションが低い事も特徴のひとつです。言わずもがな、コンバージョン(CV、商品購入などプロモーションのゴール)までの確率もそう高いとは言えません。

  • 情報取得コストが低く、露出量が多い
  • ターゲティング精度は(※昨今のアドテクがもつターゲティング機能に比して)低い
  • 情報収集に対するモチベーションが低い(視聴者・読者のコンテンツ消費目的が薄い)

これにより、ターゲティングがニッチであればあるほど、広告主にとってはROI(投資対効果)が悪くなってしまいがちでした。

この状況が、近年以下のように変化しました。

「30~40代既婚女性」程度の粗いターゲティングであれば、アドテク企業が持つオーディエンスデータ(読者属性データ)でターゲティングできるようになった「30~40代既婚女性」程度の粗いターゲティングであれば、アドテク企業が持つオーディエンスデータ(読者属性データ)でターゲティングできるようになった

  • 視聴者・読者の情報消費スタイルがインターネットに十分量シフトしたこと
  • アドテクノロジーの進化によりターゲティングが容易になった(=「枠」に依存せず広告価値を提供できるようになった)こと

主には上記2つの理由により、特に目的がCV/リード獲得に近いプロモーション案件については、マスメディアにおける従来の広告収入から失われていきました。この流れは既に世に出回る多くのレポートでも語られていることでしょう。

なおここで言う「近年」はnearly a decade的な意味で、ここ十数年の意味です。「アドテクの進化はそんな最近じゃねーだろ」というツッコミはご容赦ください。TVなんかは地デジ化してこの辺も事情が変わりうるという点についてもここでは一旦除外しています。

「専門分野向けメディア」はどういうビジネスモデルで、近年何が起こったか

さて、では専門分野向けメディアはどうでしょうか。

専門分野向けメディアでは、もともとの方向性から以下のような状態でした。

専門分野向けメディアは、マスメディアがターゲティングし切れないニッチなターゲットに対し、比較的割安でリーチできる広告価値を提供することで広告事業を成立させていた専門分野向けメディアは、マスメディアがターゲティングし切れないニッチなターゲットに対し、比較的割安でリーチできる広告価値を提供することで広告事業を成立させていた

  • 情報取得コストが高く、露出量が少ない
  • ターゲティング精度が高い
  • 情報収集に対するモチベーションが高い(視聴者・読者のコンテンツ消費目的が明確)
  • 露出量に対して広告費が割高

専門分野向けメディアでは、業界のトレンドを詳しく知りたかったり、業務上の課題解決をしたかったり、熱帯魚の飼い方が知りたかったり、特定の明確なニーズを解消するコンテンツを掲載することで、先に述べたマスメディアとは反対の上記のような特徴を持つことで、ある程度差別化し露出量に比して少し割高な価格での広告事業が成立していました。

コンテキストマッチの概念を持つ広告技術で、たとえば「電子帳簿保存法の改正内容のわかりやすい解説」を探している人も狙い撃ちで広告を掲出できるようになったコンテキストマッチの概念を持つ広告技術で、たとえば「電子帳簿保存法の改正内容のわかりやすい解説」を探している人も狙い撃ちで広告を掲出できるようになった

ところが上記の通り、この専門分野向けメディアが持っていた付加価値についても、アドテクの進化で同じことが割安でできるようになってしまいました。

「検索したキーワードに合わせて広告が表示される」、「今読んでいる記事と同じテーマの広告が表示される」など、オーディエンスデータ(視聴者・読者の属性)ではなく、コンテキストマッチ(視聴者・読者が何に関心を持っているかに合わせて広告を掲出する技術)による広告掲出が可能になったのです。

そしてこの技術もまた、「枠」を購入する従来の広告商品よりも安い価格で提供されています。

このため専門分野向けメディアの広告事業についても、やはり従来通りの価格・規模を維持することが難しくなってきています。少し技術革新・普及に時間差があり猶予があっただけで、マスメディアの広告事業と同じ途を辿っているのです。

デジタル化しても広告収益だけに頼るわけにはいかず、販売収益が成長するには時間が掛かる

これらの状況を、収益構造で示すとこうなります。

広告収益は大きく下がり、販売収益(コンテンツ収益)はじわじわと漸減してきたメディアは多いのではないだろうか広告収益は大きく下がり、販売収益(コンテンツ収益)はじわじわと漸減してきたメディアは多いのではないだろうか

企業によって偏りはあれど、メディア事業そのものの収益は「広告」と「販売」の2本柱である企業は多かったことでしょう。情報収集スタイルがデジタルに移行しじわじわと減る「アナログ媒体上のコンテンツにお金を払ってくれる視聴者・読者」と、アドテクの進化により年々厳しくなっていく「純広告枠の売上」を、食い止めることは可能でしょうか?

率直に言って極めて難しいと言わざるを得ません。

前者は手をスマホから紙に、目をスマホからTVに向けることを示す手段が必要です。後者はどんどん進化するアドテクよりも高効率で視聴者・読者と広告のマッチングを実現する必要があります。

日本よりも先にこの状況に直面した欧米では、生き残ったメディアを明確に分けた取り組みがあります。それは収益源の多角化です。

独占状態にある一部のメディア、税金を投入されているメディア、厚いファン層を構築できているメディアなどもありますが、欧米で早くから「イベント(セミナー等)」、「人材紹介」、「マッチング」、「データ販売」、「認証・資格」など、広告やコンテンツ販売とは別の収益源の確保に動いたメディアは生き残っている傾向にあります。

広告収益は大きく下がり、販売収益(コンテンツ収益)はじわじわと漸減してきたメディアは多いのではないだろうか広告収益は大きく下がり、販売収益(コンテンツ収益)はじわじわと漸減してきたメディアは多いのではないでしょうか

従来の収益構造を、上図のように変えていかねばなりません。何が「正解」か分からないこのVUCA時代に、自社の業界やブランド、専門性、体制に合う新たな収益源を見つける必要があるのです。なお「同じ予算」を取りに行く収益源を創ろうとしてはいけません。企業の広報予算ではなく教育予算、個人の娯楽費ではなく食費、など、「違うサイフ」向けの事業として、既存事業と競合しないよう注意せねばなりません。

こういった取り組みを、既存事業にある程度の粗利があるうちに、「〇〇でCMやってた」、「〇〇に載ってた」という権威・ブランドが自社メディアにあるうちに検討する必要があります。既存事業をそのままデジタル化しても、いくら紙媒体で確立したブランドがあれど既存読者が即デジタルシフトしてくれるわけではないため、競合がいれば差別化やブランディングが必要で、それには一定の時間が掛かるためです。


実際に事業をお手伝いする際は、これまでの様々なメディア様の事例を参考にしながら、ここからさらに具体的な収益源の案、その商品設計、投資回収計画などの素案を作り支援していくのですが、大変長くなってしまうため、社内でも共有した内容は一旦ここまでとしました。

ここまで述べたことはほんの前提の話であり、かなり説明が粗く全ての「コンテンツホルダー」に当てはまるわけではありません。

イノベーター・ジャパンの「MediaDX事業部」では、最新のメディアビジネスのあり方を調査し、考え、新聞社・出版社・メディア運営事業者の皆様を支援しています。ご関心ある方はぜひ、遠慮なくお声掛けください。まずはカジュアルに意見交換なども大歓迎です!

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