ビジネスデザインの定義
まず、ビジネスデザインにおける「デザイン」は、単なる「意匠的な観点でのデザイン」ではありません。企業が新規事業の開拓や利益拡大を目指して、より根本の「設計」の段階から事業全体をデザインしていくもので、戦略的な意味合いがあります。
また、ビジネスデザインは、新しいアイデアを生み出すというより、既存の価値を組み替えることでイノベーションを起こし、そこから新しい価値を生み出すことを目指しています。素材を生かして美味しくする料理のようなもので、「その企業の強みをうまく抽出して、今の世界に合うように変えていく」いとなみです。
多くの企業が、技術革新や社会経済システムの変化など様々な環境変化に直面している昨今、事業全体を設計段階から検証・改善していく手法に、注目が集まっています。
ビジネスデザインの歴史
ビジネスデザインが世界的に注目され始めたのは、今から10年以上前のこと。
2009年にロジャー・マーティン氏が「The Design of Business: Why Design Thinking is the Next Competitive Advantage」を刊行したことが、ひとつの契機であったと言われています。
残念ながら日本語に翻訳されたものは刊行されていませんが(2022年3月現在)、タイトルを直訳すると「ビジネスのデザイン:デザイン思考が次の競争優位である理由」となります。
著者のマーティン氏は、トロント大学のビジネススクールであるロットマン・スクール・オブ・マネジメントの元学長です。イギリスのコンサルティング会社が選ぶ「Thinkers 50(世界で最も影響力のある経営思想家)」にも選ばれたことがあり、グローバル企業の戦略アドバイザーを務める「戦略の第一人者」として知られています。
本書において同氏は、「To innovate and win, companies need design thinking.(革新して勝つために、企業はデザイン思考を必要としている) 」と示し、本書で「デザインと経営の融合」という思考の必要性を説きました。
また同氏はロットマン・スクール・オブ・マネジメントに、デザイン思考を用いたプログラムを導入し、様々なフィールドで活躍できる多くの卒業生を輩出しました。今では、世界中のビジネススクールのプログラムの中に、「デザイン思考」のプログラムが取り入れられています。
日本でも、筑波学院大学・昭和女子大学・専修大学・桃山学院大学などにビジネスデザイン学部、立教大学大学院・城西国際大学大学院などにビジネスデザイン研究科があり、実践的なプログラムを実施しています。
ビジネスデザイナーとは?
ビジネスデザインを生業とする職業に、「ビジネスデザイナー」があります。個人で営む人もいれば、電通ビジネスデザインスクエアや富士通ビジネスデザイン部のように、社内に部署を置く企業もありますが、彼らはどのような仕事をしているのでしょうか。
ビジネスデザイナーの仕事内容について、世界初のUSBフラッシュメモリーの発案者として知られる世界的ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、2017年のトークセッション(*1)の中で以下のように説明しています。
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・ひとつ目の仕事は、企業の方向性をシフトさせて、新しい方向を見つけていくこと
・もうひとつは、コンセプトやアイデアを「リチューン」すること
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また、「いくら面白く新しいアイデアも、実現できなければ意味がない。クライアントの技術力や経済力を踏まえて、実現可能なサイズに調整していくことも仕事」と説明しています。
*1 「AdverTimes.」コラム 2017/12/11 https://www.advertimes.com/20171211/article262683/